クマの庭

雨上がりの庭は緑が勢いづいて鬱蒼としてきた。クマは農耕種族ではない。この海辺の街の高台の一軒家に越してきたとき、庭は綺麗に整地され先住人の庭木は跡形もなくなっていた。柔らかい雑草が生えて伸び風に吹かれるのを眺めて暮らして…

逝きざま

ものを言うことも書くこともできないときがしばらく続いた。失っていた言葉が少しずつ押し出されるように出てきたのは、バラが逝ってからだった。バラは逝く時が近づいたのを知ると、すぐに仕事を辞め、奥の部屋で寝たり起きたりしながら…

卒業

駐機場は飛行機が少なくて閑散としている。欠航便が相次ぎ、チェックインカウンターでは複数名のスタッフに取り囲まれ、いつになく手厚い接遇を受ける。ドラの出発には例のごとく家族総出で空港まで見送った。   ドラは家族…

ノラの運動会

集団心理というものだろうか、運動会ではよく泣かされる。去年に続き今年はさらに泣かされた。姪のノラが後ろの方から疾走してくる姿によくぞ大きくなったなあと感動するのとは違う。そういった個人的感傷とは異質のものである。 ある一…

クマの通勤路 続編

まだ薄暮れ時だからよかろうと油断したのだが、かえって面倒な事になった。山道の真ん中にぼんやりとケモノがうずくまっているように見える。タヌキぐらいの大きさだ。正体を確かめようと恐る恐る近づくと、それは大きな石だった。真っ暗…

台風一過

<登場動物> 浦島クマ:ドイツの森から帰国して月日を経て海辺の街に根づきつつある。 ドラ:クマの娘、猛獣高校卒業後は社会経験と称して旅などして1年を費やす。 ノラ:クマの姪、ドラ姉の金魚の糞と化し、小動物学校に通う。 ロ…

夏至の焚火

クマの形容詞から、さすらいという言葉が無くなっている。家族構成や生活環境など、物理的に時間も暇も物心両面の諸条件がさすらうのを許さない。さすらいには、独りでいることが必須で、何にも属さない気楽さとともに、常に自分をつなぎ…