ドイツのサウナ事情

ドイツに暮らして初めの2~3 年は、毎日入浴するために、肌がカサカサで真っ赤に荒れ痒くて困った。カルキの多い硬水で、気候は寒冷で乾燥している。ドイツ人は毎日のように湯船に浸かって暖まるという習慣がない。シャワーをさっと浴びて終わり。おしゃれな友人に洗顔方法を尋ねたところ、顔を洗ったりなんかしないわ、オイルマッサージするのよと言われた。

そこで、サウナに行く。ミュンヘン交通局が管理運営するサウナ施設はミュンヘン市内に10カ所ぐらいある。街の中心部にあるイザール川に面した石造りのサウナ施設は、彫刻が施され、ちょっと信じがたく美しい建物だ。

私はたいてい近所の歩いて5分のサウナへ通っていた。2015年当時、4時間で13ユーロ、8時以降は8ユーロで、11時終了になる。タオルとバスローブとサンダルを持参する。備え付け石鹸やシャンプーなどもない。サウナエリアとプールエリアは分けられ、プールだけなら3ユーロで入れて子供達で賑わっている。

プールエリアから水着を脱いで、バスローブを羽織り(私はパレオ)サンダル履きでサウナエリアにはいると、照明が暗く、大人しかいない。普段は男女混合で、曜日によってレディースデイを設けている施設もある。老若男女取り混ぜているが、妙齢の女性一人というのは少なくアジア人はまず見ない。更衣室も一緒である。まさか、裸が恥ずかしいなんて思いも寄らない風情で、取り混ぜて衣服の脱着をしている。南ドイツはそういう場所だ。

高温サウナでは時間になると、タオルを持った職員がやって来て、特別サービスが始まる。すし詰め状態になり、寝転んでいた人々も皆座る。体格のよいポロシャツに短パンの職員が、柄杓で焼け石に水を何杯か引っ掛けると、シュワーッと蒸気が上がりアロマが香る。そして、彼がタオルをビュンビュン回して室内の空気をかき混ぜると、熱い空気が降りてくる。さらに、お客一人ずつの前に立って、3回タオルで煽ってくれる。もっと暑くなる。一回りするとおしまいで、汗だくの職員はブラヴォーと拍手喝采を浴び、我慢の限界に達したお客は息も絶え絶えになって表へでる。

ミストサウナでは、サービスタイムになると、蜂蜜が入った小さな紙コップが配られる。舐めても美味しいが、皆さん体中に塗りたくって、お肌のトリートメントをする。塩を持参してきた友人に分けてもらったこともある。

中温サウナで、汗だくでゴロリと寝ていると、何て名前だ、とむくつけき輩から声がかかる。相手をしたいなら別だが、ひとり静かにしていたいので迷惑な旨をはっきり伝える。露骨にじろじろとこちらを眺めている輩には、はっしと視線をあちらに当てると、俯いてしまう。別に減るわけでもないが、気楽に寛ぎたい。こちらの態度をはっきりさせておけば快適に過ごせる。

久々の日本でサウナにテレビが付いている。仰天していたら、”笑点”を放映中で、30年経っても山田さんが座布団運びしていた。ドイツのサウナでは、薄暗がりで静かに瞑想ができる。テレビを消してもらえないか、と店の人に頼んだところ、皆さんが見てらっしゃるから、と言うので、やかましいので止めて欲しい、と重ねて頼むと、最初からついているので、と却下された。