駐機場は飛行機が少なくて閑散としている。欠航便が相次ぎ、チェックインカウンターでは複数名のスタッフに取り囲まれ、いつになく手厚い接遇を受ける。ドラの出発には例のごとく家族総出で空港まで見送った。
ドラは家族を繋げるお役目を担っている。今回は、クマが老母ロバと小さいノラを相手に暮らすのに音を上げている所へ折よく帰って来て、クマを労い、皆の間で和やかに振舞い、海の向こうへ戻って行くのだ。
大きな娘ドラとハグすると、オカーチャン小さいね、と言われた。クマは、背の順で並ぶと後ろから3番目に位置していた子供時代の身体認識が、巨人が大勢いるドイツでも変わらなかった。近頃では、実際に身体が小さくなり、やっと自分は大きいと思わなくなった。身の丈がわかるようになったか。
再び別れが身に沁みるようにもなった。ドラとの別れについては、生まれてこのかた何遍ドラマを演じたのだろうか。父親コブラとの壮絶な争奪戦の中でドラは大きくなった。ドラに可哀想だと思っても、お互いに無理解で尊重し合うことができなかった。
異文化の両国を行ったり来たりして育ち、その度に慣れていくためには、双方の良いところを取り入れるようにした、とドラは教えてくれた。結局、母クマをその祖国に置いて、ドラは何度目かの父の国へ渡った。ドラの魂は地球上で一個体として成長し、クマの子育ては終了したのだ。
子育てを終えたクマというのは、通常ならば単独行動に戻るはずなのに、なんの因果かロバとノラが居る。これは鬱陶しい。そこで、ロバがノラを孫育てするのを傍観することにしている。大事にしてもらいたい者たちの集会所では、まず自分を大切にすることから始めよう。