ノラとコロ難

この春、タコツボ小動物学校を卒業したノラが、カササギ中動物学校に入学して間もなく、高熱を出した。幸か不幸か週末であったため、一日寝かして氷水袋で頭を冷やし、月曜の朝には平熱に戻った。しかしながらご時世である。クマの生業は訪問手当サービスであるが故、万が一でも感染症の抗原を持って回るわけにも行かず、事務所から医療機関のチェックを受けるようにとお達しが来た。予約した発熱外来ドライブスルー検査では、クリニックの裏口へ車ごと誘導されると、完全防備のドクター&ナースが待ち受けていて、ノラの鼻腔に綿棒を突っ込んで10回こすった。結果はすぐに、コロ難陽性反応が出た。なんとなく予感があった。

症状の問診では、土曜の吐き気から始まって、夜から発熱し日曜まで一昼夜39度台が続き、一回下痢して翌朝には収まった旨を述べる。保険証の写真をとり、名前と連絡先電話番号を確認すると、隔離期間の説明があり、一枚の書面を渡してくれた。そこにはQRコードとネット検索ワードがあって、LINEまたは音声自動通話で健康管理サポートが始まり、療養のしおりがダウンロードできると書いてある。薬が欲しいかと聞かれたが、顕著な症状がないので辞退し帰ってきた。

帰宅すると、カマクラ保健所から電話がかかってきて、クリニックで聞いた隔離期間の説明と、もらった書面に書いてある内容を繰り返し話してくれた。すかさず、カナガワ県庁自動音声サービスからかかってきて、熱が37,5度以上あるかと息苦しくないかとの質問に、ハイかイイエで答える。症状が急変した場合の電話番号を知らせると電話が切れる。LINE 登録はしていないが、電話が毎日かかって自動音声質問による健康チェックをしていく。凄いのである。隔離監視システムの構築である。。療養のしおりには何が書いてあるのか興味津々で検索して開けてみると、個室が無理ならカーテンで仕切るといった感染を拡げないための方策ばかりで、コロ難をどう乗り越えて回復するかについては触れていない。

 

ところで、凄いのは老母ロバである。ノラとはふすま一枚隔てた隣室で寝起きしているが、ノラ発熱以降、何やら喉がおかしいと自覚するや、深呼吸療法を始めたらすっきりと治ってしまい、熱も出ないし何ともないというのだ。一晩中、氷水袋を取り換えてノラの額を冷やしていたクマは、やはり若干喉がおかしいと感じて、塩水で鼻うがいをして、早寝早起きをしている。どう考えてもウィルスは体内に入っているだろうが、早朝人のいないうちに山へ登って空気を胸いっぱい吸い込み、汗だくで山を降りると、朝の海に飛び込んでザブザブ泳いで帰宅する。熱が出ないのだから、汗でもかいて不要なものを排出し、循環よく免疫あげてウィルスでも何でもやつけるぐらいしか手立てを思いつかない。そういえば、ノラと同時期に一回下痢をしたなあ。出せば済むのか。。

熱も涙も出ないクマは、山で踊り、海で泳ぎ、歌を歌い世の中の憂さをやり過ごしているのかもしれない。。

 

何より嬉しいのは、現場仕事を10日間も休めるという事だ!なんて久しぶりなのだ!!ドイツの森に棲んでいた頃は、夏の3週間は日本に帰国し、イースターとフィングステンとクリスマスはそれぞれ2週間ずつ休みで、南仏のオマの家のハンモックでのんびりしていた。休みを楽しみに仕事をしていたものだが、帰国した途端に仕事を休むのが申し訳ない社会に舞い戻ってしまった。この事態は日本のビジネスワールドの常識と化していて、クマでさえ休むときは謝ってしまう始末である。世界の中で常識がまかり通らない体験によって、世の中の風通しがよくなることが国際化だとすると、国外の行き来に制限のかかるコロ難の波紋は如何に。。

 

家族全員お腹が空いてよく食べる。旬のタケノコが美味しい。竹の子の発芽成長パワーを毎日頂いている。療養は食べて眠るのが基本であるが、部屋の埃が気になる。クマがそろそろ掃除をしようと動き出すと、ノラもロバもそれぞれの部屋の片隅にうずくまり、クマに向かって、動物園の飼育係だ、と呟いている。確かに、各小屋の清掃と餌を配っているのはクマである。

 

宇宙は神様の壮大な終わりのない実験室である。。