オマ舘の前庭の桑の実

精霊降誕祭は5月の半ば頃で、南仏オマの舘へ行くと前庭に桑の実が色づいている。オマもコブラもこのファミリーメンバーの背丈だと楽に実に手を伸ばしているが、クマにはあと少しで手の届かない高さである。よじ登って心地よい位置に落ち着いて、もいでは口に放り込みしばらく樹上で過ごしている。オマの舘は、元百姓家を増改築して創られており、入り口を入るとキッチンである。キッチンセットが南向きで庭を見渡しながら料理するような作りで家の正面中心に位置している。その入り口の前に桑の木があり、家の出入りの際ちょっと木陰で立ち話ができる。木の根方には犬たちのための水桶が置いてあり、犬の憩いの場で昼寝場所にもなっている。

一月ほど早いイースターの頃は、山は若草色で、野原に野性のアスパラガスが伸びている。指の太さほどでバターとガーリックで炒める。黄色いミモザが美しい時期で、オマの友人のジョンの家の大木を見に散歩で立ち寄ったりした。まだ朝晩が冷えるけれど、木立にハンモックをつるして寝袋にすっぽり入って眠ると、朝方寝袋は夜露でしっとりしている。ベリー類はまだ実を着けていない。

犬のロティを呼ぶとどこからか飛んで出てくる。リードを持ってクマが駆け出すと、傍らをかすめて猛ダッシュのロティが舘の周囲の茂みを吠えながら駆け抜けていく。山の中腹にあるオマの舘は、どちらへ出ても山道である。主要道路を横切る時はロティを呼んで首輪を捉える。道路をしばらく歩くときにはリードをつけ、並んで一緒に歩く。ダートロードに入るとまたリードを外し、ロティが駆け去るのを見送る。広い野原で時々ロティを呼ぶと、必ずいつもどこからか疾走して姿を見せ、小躍りしてまた視界から消える。休暇でやってくる度にクマは何時間も長距離散歩にロティを連れて行くので、ロティもクマを散歩の相棒だと認識している。

野道に茂って黒い実をつけるブラックベリーがまたたまらない。もいでは口に放り込んでしばし場所を動かない。するとロティの方からクマの様子を見にやってくる。中世の城跡のある村で、ケルトの遺跡も石積みの建造物が野原の中に埋もれている。お天道様を見ながら歩くのが常で、地図はないし、言葉もわからないが、ヒトに出くわすことも稀である。知らない道は行ったら引き返し、少しずつ距離を伸ばし、周回コースにし、コース間の連携を増やしていく。毎日毎回何年も歩くうちに、山の中を歩き回れるようになってしまった。

山は国有林ナショナルフォレストで、野生動物たちも生息している。微弱電流を流した線に囲まれた区画の木戸を開けて、野生動物保護エリアに入る。たまには角の生えた鹿や、群れの動物たちとも遭遇した。じっと目を合わせてクマは動かないと、相手方がごく自然に動き出す。それを待ってクマは遠慮がちにまた歩きだす。

イースターも精霊降誕祭もクリスマスも2週間、夏休みは3週間を、オマの舘で過ごした。桑の実とブラックベリー そして夏のイチジクは、館の敷地の内外で、身体が果物でいっぱいに満たされるまで食したものだった。